ある日曜の朝、寝ていたら突然ベッドに振り落とされた。
まだ寝ぼけていたので、自分の寝相が悪くて転がり落ちたのかと思ってよじ登ると、ベッドが怒鳴った。 「寝るな! サボるな!」 震えたり波打ったりして、横になるのを阻止しようとする。
「休みなんだから、もう少し寝かせてくれよ……」 「いいや、もう我慢できん。俺は勤勉なんだ。なんだってサボり野郎をぐうすか寝せにゃあならんのだ」 ベッドはがたがたと木枠を鳴らして、そんなことをわめいた。
ひどい言われようだ。 先週はずっと残業続きで帰って来れず、ビジネスホテルで仮眠して出勤していたというのに。しばらく使わなかったせいか、道具の分際で変な自我が目覚めてしまったらしい。
「この勤勉な俺さまの上で休むなんぞ言語道断。働け!」 「じゃあベッドであるところのお前を、なんに使えっていうんだ」 「テーブルとか、パソコンデスクとか。あるだろう、仕事が」 まあ確かにスプリングも綿も入っていない、ただの折りたたみ式板ベッドだけどさ……。
「判った判った。じゃあ部屋の模様替えをするから、あとでちょっと外に出すぞ」 そしてとりあえずその場はたたんで壁に立てかけておき――。
火曜の粗大ゴミの日に捨てた。
当然だ。 俺は疲れているし、うちのアパートは狭いのだ。いちいち使いかたに注文をつけるベッドをテーブルにするようなユーモア精神も、空間的余裕もない。
だいたいにおいて“勤勉なベッド”の仕事とは、人をゆっくり寝せることのはずではないか!
たぶんあいつ、数日楽をしたせいで、俺を乗せてじっとしているのが嫌になったんだな……。
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