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ミッドナイトミステリトレイン




 週末の飲み会でうっかり飲み過ごして、終電に乗り遅れてしまった。
 タクシーで帰るかホテルに泊まるか話し合っていたら、酔っ払ったメンバーの一人が、わけの判らないことを言いだした。

「判った! 電車を増やしゃいいんだ」

「どうするんだよ」
「こうするんだ」

 言うなり彼は、その辺から引っ張ってきたゴミ箱によじ登った。何をするのかと見ていると、券売機の上にある時刻表の終電時間の後ろに、マジックで時間を書き足したではないか。

「馬鹿か」

 みんなでわあわあ言いながらも、他に行くところもないのでとりあえずホームまで行ってみると――。

 ……本当に電車が来た。

「ほら見ろ」
「じゃあ、俺も」
 そして書き込んだ奴と方向が同じ数名が乗り込んで、電車は走り去っていった。

「……」
 残った者はなんとなく顔を見合わせ、駅前のカプセルホテルに泊まって次の朝の始発で帰った。

 翌週の朝、彼らは会社に来なかった。

 やっぱり……。
 あの時、到着駅側に時間を書き込んでなかったからなあ。

 それ以来、彼らの姿を見た者はいない。きっと今も終電後の電車で時間の狭間をさまよっているに違いない。

 誰かがうまい解決策を思いつくまでは……。


<タイトル拝借> クライヴ・パーカー 『ミッドナイトミートトレイン』