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Bittersweet ラピュタ




 ある日、ネットで旅行サイトをチェックしていたら、口コミ掲示板で「お菓子の国」への格安パックツアー情報を発見した。

 数ある空中独立都市の中でも、「お菓子の国」は街全体がお菓子でできている、子供の夢を実現したような都市なのだ。知名度も人気もトップクラスの観光地だが、空中への旅行は金がかかるため、一般人にはなかなか行きにくい。
 さっそくツアーを主催する旅行会社を調べて申し込んだ。

 こんなチャンスはめったにない。せっかくだから友人にも教えてやろうとして電話をかけた。超甘党の彼も、かの国に行ってみたいと常々言っていて、パンフレットや雑誌の特集を集めているのだ。
 だが、「一緒に行こう」と誘ったところ、反対に「やめたほうがいい」と忠告された。

「あのな、お菓子の国は今ごろちょうど梅雨なんだ。クリームは流れるわチョコや飴は溶けてべとべとになるわビスケットは湿気でふにゃふにゃだわで、安いからって飛びつくとがっかりするってさ」
「えっ? だって、空中都市って動けるんだろ? 梅雨ぐらい避けられないのか」
「空中都市同士の兼ね合いもあって、運行規定で年に一度はどうしても梅雨を過ごさなきゃないらしい。それに合わせて梅雨明けにお菓子を全とっかえするから、逆に今は全部賞味期限切れ寸前で、カビも生えかけてるって話だぞ」

 だから格安なのか……。

 急いで旅行会社に連絡してキャンセルを伝えた。すると対応に出たのが親切な人で、声をひそめて教えてくれた。
「お客様、ひょっとしてご存じなかったんですか? 空中都市旅行をご希望の場合、一泊五十万円を切るパックは、あまり期待しないほうがよろしいですよ……」

 なんだか話を聞いているうちに幻滅して、お菓子の国自体への興味が薄れてしまった。

 地上の人間からすると、空の国は夢の国なのだけれど。
 実際は現実の延長線上なのだなあ。