公園で友人としゃべっていたら、彼の携帯が鳴った。 彼は携帯を取り出して着信画面を見るなり「あーまたか」と呟いて、こちらを見た。 「悪い、取っていいか」 「どぞ」 「もしもし……こんちは。お久しぶりです」 電話に出た友人は、その場でしゃべり始めた。
聞き耳を立てるつもりもないが、こちらも待っている間はすることがない。なんとなく聞いていると、彼は奇妙な会話を展開し出した。
「……その後どうですか? ああ……ええ、そうですか。それはどう考えても大臣の陰謀くさいですよね。……ええ、ええ。それより、あなたも一度護衛の人に相談してみてはどうですか? 私より事情が判っている人に言ったほうが――ああ……はあ? お抱え呪い師? その人はこないだ寝返った神官長よりもあてになるんですか? じゃあ、その人に。ですね。ええ、ええ、頑張ってください。じゃあ」
彼は電話を切ってから舌打ちした。「俺に訊くなっつうの」 「演劇か何かの打ち合わせか?」 「いや……実はさあ」 友人の話によると、しばらく前から突然変な電話がかかってくるようになったのだという。
「なんかどっかの王子だって言うんだけど、弟が大臣と手を組んで王位継承者である自分を陥れようとしてるとかって言っててさ」 「なんだそれ。新手のイタ電じゃないのか。非通知?」 「いや。これ」 彼が見せてくれた着信履歴は、非通知ではなかったが番号も判らなかった。文字化けした判読できない記号が二行分並んでいたのだ。
「俺もイタ電か何かだと思って無視してたんだけど、しょっちゅう鳴ってうざくてな。とりあえず取ってみたら、いきなりそんなこと言うわけよ。まあなんか必死っぽいから、暇なときは相手してやってるんだけど」 「リダイヤルするとどうなるんだ?」 「繋がるよ。でも一回かけて二、三分しゃべったら、その月の通話料が一万円くらい余計にかかってさ。こっちからはかけないようにしてるんだ」 「ふうん……面白いな」 こちらの興味深そうな様子に気付き、友人は首を振った。 「はっきり言ってかなりヘビーな話だぜ。本当かどうか判らないけど、あいつの話じゃもう兄弟とかもかなり殺されたみたいだし。電話が来たら無視したほうがいいんじゃないかな」
普通、そんな電話来ないだろ……。
まあ、ただのイタ電にしては手が込んでいるが、こちらからかけない限りは被害がないらしい。その点はいいけど。 世の中にはいろいろ不思議なことがあるものだ。
それから数日後の夜中、突然携帯が鳴った。 寝ぼけて着信も見ずに「もしもし……」と出ると、息せききった男の喚き声が聞こえた。
『誰か助けてくれ! 兄上の――兄上の呪いが! 殺される――』 「……」
俺は即座に電話を切った。 そして友人の忠告通り、速攻でその番号(文字列)を着信拒否にして、また寝た。
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