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文化水準




 ファンタジーワールドの研究のため、手始めにコボルド族と接触を図ることにした。
 まあ、そうは言っても彼らは中世ファンタジーを舞台にした小説やゲームの世界では、数ばかり多い最弱のやられ役だ。知能も低いというし、たいした情報は得られまい。

 しかし苦労の末にようやく探し出して訪ねた集落には、ほとんど人気(コボルド気)がなかった。
 ひょっとすると、どこかの村でも襲撃しているのだろうか。

 それにしても……。

 思っていたよりもずいぶん立派な集落だ。
 よく踏み固めて平らにならされた広い目抜き通りに沿って、木造のしっかりした家が並んでいる。まるで人間の村のようだ。
 とりあえず集落の入口で見張りに立っていた、若いコボルドに話しかけてみた。

「こんにちは」
「そなた、人間か。人間はここに来てはならぬ」
 そのコボルドは不機嫌に言った。幾分聞き取りにくくはあるが、きちんとした人間語だ。

「人間は嫌いだ。人間どもは私のことを506回も殺したのだぞ」
「……506回?」
「昨日は族長が殺された。65972回めだ。今は黄泉還りの儀式の最中ゆえ、長らも民もみな忙しい。早々に去ぬるがよい」

「は、はあ……」

 ――研究ノート一頁目。

『不死の種族、コボルド』……。