トップ - もくじ - No.141〜160 - 個別の話147


贅沢グルメ




 友人の秋元はオーガの一族――つまり食人鬼だ。
 しかもけっこうな美食家で、人間の肉体のいい肉ばかりを選んで喰う。

 なので彼はとても人気者だ。

 その日も、彼とおしゃべりしていたら、若い女性がやってきた。
「あの、知り合いから紹介されたんですけど……。秋元さんでいらっしゃいますか」
「ええ、そうですけど」
「食欲の秋で食べ過ぎて、ちょっと太っちゃって……。おなか周りの肉をお願いしたいんです」
「わかりました」

 彼はビニール袋をひっくり返して右手にかぶせ、女性の腹部に軽く触れた。そしてそのまま腹部のたるんだ肉を引っ張り出すようにこそげとった。

「終わりましたよ」
「ありがとうございます。おいくらですか」
「ああ、これくらいはサービスです。そのかわりこちらはいただきますよ」

 だがベルトの穴一つ分は確実に細くなったその女性が立ち去ったあと、ピンク色の肉塊が入ったビニール袋を見た彼は、つまらなさそうに言った。

「サシがいまいちだな。それに、これっぽっちじゃ夕食には足りないよ。もっと太った奴が来ないかなあ」
「でぶの肉なんか、脂身しかないんじゃないのか」
「贅肉は脂っこいほうが柔らかくて旨いんだよ。腹の皮にこってり皮下脂肪がついたやつなんか、焼いて喰うと最高だぞ。贅肉って本当に贅沢な肉なんだなあって判るぜ」
 彼はうっとりと言って舌なめずりした。
「あとセルライトがたっぷりついた二の腕の肉なんか、文句ないね。あのこりっむにっとした歯ざわりがなんとも言えずいいんだよ」

 グルメ食人鬼、秋元。
 彼の食人エステは大人気……。