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発明家の祭典




 全国の発明家が集う展示即売市が開催されると聞いて、見に行ってみた。
 熱気むんむんの会場をうろうろしていたところ、なんとなく一台のカセットデッキに目が止まった。
 入るのはカセットテープ一本ぶん。再生、早送り、巻き戻し等のボタンが一通りあるだけで、ボディには某有名メーカーのロゴまで入っている。

 どこから見ても普通の市販品のカセットデッキだ。

 しかしここは発明市。やはり何か凄い機能がついた発明品なのだろうか。
 眺めていると、発明者が近寄ってきた。
「きみ、これは凄い品だよ! 買わんかね」
「ただのカセットデッキじゃないんですか」
「もちろん違うとも! きみ、これはね、時間を再生するカセットデッキなのだ!」
「ど、どうやって使うんですか」
「時間を録ったテープをこのデッキに入れて、再生するだけだ。早送りすれば時間が早く過ぎ、巻き戻せば時間が戻るという寸法だ。どうだ、素晴らしいだろう!」
「それは凄い。で、そのテープは?」
「発明中だ! 理論は完璧なのだが、資金が足りなくてあと一歩のところで行き詰まっておるのだ! ちなみに、きみ、これ買わんかね? 普通のテープも再生できるぞ」
「……」

 ここは全国の発明家が集う展示即売市。

 各地の発明家が、世間や企業にはなかなか認められない斬新な発明の数々を披露し、更なる研究のための資金を調達する場……。