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善き精霊




 フリーマーケットで魔法のランプを手に入れた。

 試しにこすってみたら、幸運なことに本物だったようだ。煙と共にランプの精の魔神が現れ、なんでも願いを叶えてくれるという。
 ここはひねらないで即物的に行ったほうがよさそうだ。
「金だ。黄金をくれ」
 頼んだら、魔神は「任せろ!」と快く承知してくれた。
 同時にランプから、握りこぶし大の金がごろごろと転がり出てきたではないか!

 しばらくはその輝きに見惚れていたが、やがて言葉が足りなかったことに気が付いた。いつまで経っても金の出現が止まらない。
 金の小山は山となり、山は時を追うごとに巨大化していく。遂には部屋からも溢れ、がらがらと階段を転がり落ちる音が聞こえてきた。
 焦って「もういい」と頼んだが、魔神はとっくにランプに帰ってしまっていて出てこない。そして肝心のランプは増殖する黄金の山に埋もれて、もはや触ることもできなかった。
 このままでは自分まで金に溺れてしまう。

 どうにか金をかきわけて、外へと脱出した。当然、開けた玄関のドアからも金塊がざらざらと流れ出てくる。
 やがて金は家の敷地からも溢れ出て、誰でも拾い放題の状況になってしまった。
 宝の山の出現で、人々がどっと押し寄せる。
 もの凄い量の人が出現量より多いペースで金を奪っていってくれたので、ようやくランプを掘り出すことができた。
 絶え間なく金を吐き出し続けるランプを乱暴にごしごしこすると、魔神が再び出てきた。

「あの、もういらないんですが……」
「なに? もういいの?」

 怒られるかと思いながら恐る恐る頼むと、太っ腹なランプの精は再び気前よく願いを聞いてくれた。
 ようやく金の出現が止まる。
 だが時すでに遅し。
 金の価値は大暴落して、石ころ同然になってしまっていた。
 さしものランプの精も疲れたらしく、“二度目の願い”に応えたあと「働きすぎた」と言ってランプに戻ったきり出てこない。おまけに失業した錬金術師や大損した投資家たちにまで訴えられ、散々な目に遭った。

 うまい話ってないものだなあ。