きのこ採りに行って山奥をうろうろしていたら、ばったり熊と遭遇した。
「お、俺なんか食べてもうまくないぞ」
焦ってそんなことを口走ると、熊は「ぶふう」と馬鹿にしたように鼻を鳴らした。 「これだけ旨いものが山に揃っている季節に、なんだって薬漬けで添加物まみれのまずい人間なんか食べなくちゃならんのだ」
おまけに熊は俺のカゴを覗き込み、憐れむように言った。
「なんだ、こんな奥まで来てクリタケしか採れとらんのか。おまけにニガクリタケまで混ざっとるじゃないか。死ぬぞ」 「すいません……」 「せっかく来たのに、こんなしょうもない雑きのこだけというのもかわいそうだ。これでも持ってけ」
熊はそう言ってカゴの中身をぶちまけ、代わりにそこいらから集めてきたいろいろなきのこを突っ込んだ。 「これを食べれば、人間なんぞ食べるに値しないことがよく判るぞ」 「は、はい。ありがとうございます……」
ふもとに降りてから、地元の人たちにカゴを見せると、「すごいねえ!」と驚かれた。 「舞茸にホンシメジにコウタケにバカマツタケ! こんな高級品ばっかり採ってくるなんて、あんたきのこ名人だよ」 激しく勘違いされたが、さすがに熊にもらったとも言えない。
カゴから溢れんばかりのきのこは、一人では食べきれそうにない。うやむやに誤魔化した後に、その場で少し買い取ってもらった。 なんと数万円にもなった。
持ち帰った分は、家でホイル焼きや炊き込みご飯や天ぷらにして食べた。歯切れよく香りも抜群で、噛むほどに味が染み出す。驚くほど旨い。
命は助かった。 お金も儲かった。 旨いものも食べられた。
……でも、なんか悔しい……。
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