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写真のコツ




 友人がギャラリーで写真展をやるというので見に行った。
 ペットの犬たちや野良猫、野鳥といった動物の日常の姿を切り取った写真は、どれも生き生きとして今にも動き出しそうだ。

 しかし、変われば変わるものだ。

 実は彼女は動物嫌いで、以前は子犬にすら近寄ろうとしなかった。写真を始めるというので一眼レフのフィルムカメラを買いに付き合ったときは、「花を接写したり、雲を撮るの」と言っていたのだが。
 彼女がこちらに気付いてやってきたので、そのことを訊いてみた。

「花の写真はないの?」
「それがね、うまく撮れなくて……」

 友人はため息をついた。
「三脚立ててレリーズやリモコン使っても、絶対にボケちゃって。雲にもうまくピント合わないし。その代わり、動物とか人間はものすごくリアルに撮れるんだ」
「ああ、それで。でももう動物は平気なの?」
「ううん、やっぱり怖くてね。あんまり近寄れないから、望遠レンズで撮ってるんだけど……」

 そんな及び腰で、こんな素晴らしい写真が撮れるのか。
 ちょっと不思議……。

 彼女は不本意そうに続けた。
「カメラって機種によってクセがあるって本に書いてあったけど、こんなに好き嫌いがあるなんて思わなくて。高かったのに、運が悪かったなあ」

 カメラのクセって、そこまで撮影に影響するのか? 拡大解釈のしすぎでは……と思ったが、とりあえずは彼女の愚痴に合わせておいた。
「まあそうだとしても、こんなふうに動物が綺麗に写せるっていうのが凄いよ。いいんじゃないの」
「でもねえ……」

 結局しばらくして、彼女はカメラを買い替えた。

 その後、再び開かれた個展に行くと、今度は花や雲の写真がきちんと飾られていた。
 とは言えその作品群には、全体的にあまり感銘を受けなかった。
 ほとんどが被写体をただど真ん中に据えた、いわゆる“日の丸構図”の作品ばかり。ピントだけは合っているものの、いかにも“趣味の延長”といった雰囲気の素人写真だ。

 やはり最初の写真が素晴らしかったのは、道具のお陰だったのかもしれない。どうやら本当に職人肌の動物専門カメラだったらしい。

 つまり、持ち主にとってもカメラにとっても、運が悪かったということか。次は互いに相応しい持ち主に巡り会うことを祈ろう。