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取り分




  満月を眺めながら月見酒としゃれこんでいたら、月が降りてきて「儂にも酒をくれ」とせがまれた。

 しかたなく手持ちのカップ酒とつまみを分けてやると、月はその場で一気にがぶ飲みして三本ほど空けた。あげく、酔っ払って「うーい。呑んだ呑んだ……」と呟きながら、さっさと西の空に沈んでしまった。

「見事な中秋の名月だったのに、ろくに見れなかったよ」
 翌日、友人にこぼすと、彼はとがめるように言った。

「お前、ひょっとして月見団子と酒を供えなかったんじゃないか?」

「そんなことして何の役に立つんだ」
「馬鹿だな。自分の分がちゃんと用意してあるって判れば、月だって焦って空から降りてきたりはしないんだ。昔の人の智恵を馬鹿にしちゃいけないよ」

 そうか……。

 そうか!?