友人がスイカを持って遊びに来た。 旬の季節には早いし、しかも普通の緑と黒のしましま模様ではなく皮がまっ黒だ。黒玉スイカと言えば高級品種で、相当高いはずだが……。
「おっ、初物だな。どうしたんだ?」 「なんか来るとき、道端の露店ですごい安く売ってたんだよ。規格外のはじき玉だけど、甘さは一緒だって言われてさ。一緒に食おうぜ」
小ぶりとは言え、直径20cm近くはある。貧乏暮らしなので、スイカなど盛夏でもなかなか口にする機会はない。さっそく半分に割って二人で食べることにした。
だが食べようとして塩をふった瞬間、真っ赤な果肉の表面から白い煙が立ち昇った。
煙は天井付近に集まり、人とも動物ともつかない形にもやもやと固まった。そして「おのれ……」と呟いて、窓の隙間から出て行った。
「なんだ、あれ……」 二人で顔を見合わせてからテーブルに目を戻すと、さっきまで紅かった果肉が緑色になっていた。皮も黒から白い格子模様が入った薄緑色になっている。
どう見ても明らかにメロンだ。
友人に買った露店がどこにあったのか訊くと、県道沿いの墓地の近くだという。 あの辺りは道路沿い一帯にメロン栽培のハウスが並んでいる。とすると、もともとはメロンで、霊か何かが取り憑いていたということか……。
「……」
しばらくしてから、友人が言った。
「清め塩もしたし、もう食えるよな」 「だな」
それから、スイカ以上に滅多に食べられない高級果物をたっぷりと堪能した。塩気が多少気になったが、甘みが増した感じで旨かった。
あれ以来、二匹目のどじょうを狙って、自分も友人もちょくちょくあの道路を通るようにしている。
しかし残念ながら、俺たちがメロン畑のスイカ売りを見ることは二度となかった。 |