トップ - もくじ - No.41〜60 - 個別の話45


スイカの色は何の色




 友人がスイカを持って遊びに来た。
 旬の季節には早いし、しかも普通の緑と黒のしましま模様ではなく皮がまっ黒だ。黒玉スイカと言えば高級品種で、相当高いはずだが……。

「おっ、初物だな。どうしたんだ?」
「なんか来るとき、道端の露店ですごい安く売ってたんだよ。規格外のはじき玉だけど、甘さは一緒だって言われてさ。一緒に食おうぜ」

 小ぶりとは言え、直径20cm近くはある。貧乏暮らしなので、スイカなど盛夏でもなかなか口にする機会はない。さっそく半分に割って二人で食べることにした。

 だが食べようとして塩をふった瞬間、真っ赤な果肉の表面から白い煙が立ち昇った。

 煙は天井付近に集まり、人とも動物ともつかない形にもやもやと固まった。そしておのれ……と呟いて、窓の隙間から出て行った。

「なんだ、あれ……」
 二人で顔を見合わせてからテーブルに目を戻すと、さっきまで紅かった果肉が緑色になっていた。皮も黒から白い格子模様が入った薄緑色になっている。

 どう見ても明らかにメロンだ。

 友人に買った露店がどこにあったのか訊くと、県道沿いの墓地の近くだという。
 あの辺りは道路沿い一帯にメロン栽培のハウスが並んでいる。とすると、もともとはメロンで、霊か何かが取り憑いていたということか……。

「……」

 しばらくしてから、友人が言った。

「清め塩もしたし、もう食えるよな」
「だな」

 それから、スイカ以上に滅多に食べられない高級果物をたっぷりと堪能した。塩気が多少気になったが、甘みが増した感じで旨かった。

 あれ以来、二匹目のどじょうを狙って、自分も友人もちょくちょくあの道路を通るようにしている。

 しかし残念ながら、俺たちがメロン畑のスイカ売りを見ることは二度となかった。


BGM:ハービー・ハンコック『Water Melon Man(すいか売り)