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躁鬱の気(そううつのけ)




 昼寝している間に影に逃げられた。

 新月の夜までに探さないと、影が闇に溶けてなくなってしまう。

 影が薄い人間は目立たないが、影が無い人間は常にうわついてやたらと明るく(うるさく)なって周囲に疎まれるのだ。

 それから毎晩一人で夜通し影踏み鬼ごっこをして、新月まであと一日という晩にようやく自分の影を踏んで捕まえることができた。

 久々に取り戻した影は闇に染まってすっかり濃くなってしまっていた。

 きっとしばらくは「暗い奴」と言われるに違いない。