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とこしえのララバイ




 最近眠りにつくのに時間がかかるので、試しに不眠症に絶大な効果があるというCDを買ってみた。
 きっとせいぜい子守歌でも入っているのだろうと思いながら、プレーヤーにセットして再生した。想像どおりの、ゆったりとしたメロディーが流れ始める。

 そしてすぐに眠気が襲ってきた。いくらなんでも早すぎると思う暇もなく、意識が暗黒に墜ちていく――。

 目を覚ますと、自分のまわりに折り重なるようにして、大勢の人が眠りこけていた。

 わけが判らずにいるうちに、ドアからレスキューの制服を着た隊員たちがどやどやと踏み込んできた。 
 隊員に支えられて外に出ると、家の周囲はパトカーや救急車がひしめいている。やじ馬も大勢いて、何やらすごい大騒ぎだ。

 あとで聞いたところでは、あのCDは呪いの歌を録音した違法な海賊盤だったらしい。プレーヤーの設定がリピートになっていたため、眠りこけたまま部屋から出てこない私の様子を見にきた親や友人も寝てしまい、更にそれを心配した別の人が――という形で雪だるま式に被害がふくらんだとのこと。
 道理で知らない人まで寝ているはずだ。
 最後は外からスナイパーがプレーヤーを狙撃して破壊し、助けにきてくれたのだという。

 一応無事には終わったが、下手をしたら寝たまま全員死んでいたかもしれない事件だった。
 しばらくして、発売元の「魂の詩人ギルド」が検挙されたとニュースで言っていた。

 私はといえば不可抗力ということでお咎めはなかった(説明書をよく読めとは言われた)。しかし、割れた窓硝子代とプレーヤーの買い替えで、それからしばらく貧しい生活を送ることになってしまった。
 しばらくはバイトで眠れない日々が続きそうだ。

 やれやれ……。