トップ - もくじ - No.201〜220 - 個別の話204


なつやすみのぼうけん




 明日から夏休み。
 咲山御崎町第三小学校ひみつクラブのメンバーで、夏休みの計画を話し合った。
 みんなで相談のすえ、「せっかくだから、何かすごい冒険をしようじゃないか」ということになった。冒険の様子を絵日記にまとめるなり、成果を持ち帰るなりすれば、自由研究や工作にもなって一石二鳥というわけだ!

 そして夏休み明け。

 学校に行くと、みんな誇らしげに冒険の成果を披露してくれた。

「マリアナ海溝の底に棲む深海生物写真集だ!」
「ドラゴンを退治したぜ! 見ろ、この銀色の逆鱗を」
「さそり座アンタレス系の昆虫標本だぞ!」
 等々……。

 一通り自慢が終わってから、視線がこちらを向いた。

「で、お前は?」

 やばい。
 実は毎日朝から晩まで遊びまくって、まったく冒険をしなかったのだ。

 みんなの華々しい成果を目の当たりにして、まさか「何もしませんでした」とも言えない。とっさに口からでまかせを言ってしまった。

「あ、いや、実は幽霊を退治したんだけどさ……。やっつけたとたんに消えちゃってさ……」

 ああ、見え透いたうそをついてしまった。軽蔑される……。

 だが聞いたみんなはどよめいた。
「マジかよ。勇気あるなあ、お前」
「ゆゆゆ幽霊? 俺、そそそそんなこと、ここ怖くてとてもできないよ」
「すげえ。負けたぜ」

 あれ?
 信じちゃった。

 面目は保てたものの、これでは大事な仲間にうそをついて、だましてしまったことになる。
 このままでは、気まずくてクラブにいられない――。

 慌ててその日の晩に清め塩と十字架と経文を用意して、近所の自縛霊を何体かやっつけておいた。

 ふう。これでとりあえず咲山御崎町第三小学校ひみつクラブの一員としての義務は果たせた。
 やっぱり、うそはいけないよな。

 ところで担任の先生には「自由研究で自縛霊をやっつけました」と一日遅れで申告したが、ぜんぜん信じてくれなかった。

「そういう見え透いたうそは、先生は嫌いだ」

 先生は悲しげに言った。そしてそれから二時間に渡って、人の歩むべき正しい道についてじゅんじゅんと諭された。

 夏休みの宿題は、お早めに……。