なじみの呪文屋に掃除用の「吸い込みの術」を探しに行ったら、店主に手招きされた。
「やあ、いつもどうも。ところでいい術を入荷したんだが、どうだい?」
カウンターに行くと、店主は黒い紐でぐるぐる巻きにされた一本の巻物を取り出した。 店内は暖房が効きすぎて暑いほどなのに、その巻物からは冷気が滲み出し、邪悪な気配が漂っている。 持っているだけで呪われそうな禍々しさの巻物だ。
「呪殺の術が記された一級禁呪の巻物だ。しかも目くらましと逆探知絶対防御の術式も織り込んであって、使っても絶対ばれない優れもの! お買い得だよ」
「……」
使っても絶対ばれないって……。
そんなものを何に使うというのだ。 というか、俺ってそんなものが必要そうに見えるのか?
「いや、掃除用の術がほしいだけなんで」 「駄目だよ、あんた。魔術師の端くれともあろう者が、禁呪の一つも持ってないなんて。そんなんじゃ同業者に馬鹿にされちまうよ」 「いや、吸い込みの術を」 「欲がないなあ。判ったよ。それじゃあ、吸い込みの巻物とセットで安くするから」 「いや、だから」 「あんたには負けたよ。おまけでつけるから、な? 持ってきな」
……さてはこいつ、仕入れたはいいが呪われるのが怖いんだな……。
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