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知的遊戯




 通販カタログを眺めていたら、『絶対なんの役にも立たない物体』という商品を発見した。
 発売元のメーカーは自信満々で、「もし何かの役に立ったら、社長の椅子をやる」と言っているらしい。

 おもしろい。
 俺は頭が柔らかいことが自慢なのだ。

 商品が到着してから、物体をひねくりまわして何かの役に立ててやろうとあれこれ考えてみた。
 だがさすが作り手が豪語するだけのことはある。
 帯にするには短いし、たすきには長過ぎるといった具合で、どうしても思い浮かばない。
 金を出して買った手前(とりあえず会社が儲ける役には立っているのだ!)、負けをただ認めるのも気に入らない。

 悔し紛れに「必死に考えて、頭の体操の役に立った」と投書してみた。

 すると、ほどなくメーカーから手紙が送られてきた。衝撃に打ち震えた弱々しい筆致で、こう書かれてある。
『参りました。我々の完敗です。これからも精進いたしますので、変わらぬご愛顧を賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。なお、お約束通り社長の椅子を進呈いたしますのでお納めください』

 そしてその翌日、社長愛用の椅子が宅急便で届いた。

 狭い四畳半の部屋を圧倒する、超巨大で豪奢な革張りの椅子。

 こんなもの、絶対なんの役に立たない。
 負けた……。