買物先で小説家志望の知り合いと久々に遭った。 以前ちらっと作品を読ませてもらった限りでは、破天荒でけっこう面白い話を書くのだが、メジャーデビューしたという噂は聞かない。 喫茶店で話を聞くと、彼は深々とため息をついた。
「実はもうやめようかと思ってるんですよ。いくら書いて応募しても全然ひっかからなくて……」 「難しい業界だからなあ……。ちなみに、どんな賞を狙ってるの?」 「こないだ出したのは、深山鍬形書房随筆賞、セッスイ感動実話文学コンテスト、赤文社ノンフィクション大賞……」
全部ノンフィクション系じゃん。
要は応募するところを間違えているのではなかろうか。 そう指摘すると、彼はきょとんとした様子で首を傾げた。 「だって、私が書く話はみんな実話ですよ。創作はあまり得意ではないので……」 「え? じゃあ、あの宇宙人のメル友の話も、しゃべる石の話も?」 「ええ」 彼は屈託なく頷いた。少しして、自信なさげにぼそぼそ呟く。 「ネタがありきたりすぎるのかなあ」 ありきたりっていうか――。
不思議な感性の持ち主だとは思っていたが、どうも相当な霊感人間か電波系だったらしい。
常識を超えた現実は、もはや現実ではない。民衆が求めるノンフィクション作品とは、宇宙人との心温まる交流を描いた話ではないのだ。 仮に実話だとしても。
とりあえず彼には、他のジャンルの賞にも応募してみるように勧めておいた。
とは言え、その後も今のところ、彼の著作を書店で見かける機会には恵まれていない……。
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