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悩める昼食事情




 職場で昼休みになり、食事に出ることにした。
 しかし毎日外食というのは、けっこう何を食べるか迷うものだ。うっかり知らない店に入って不味いものを食べるのも嫌なので、同僚におすすめの店を訊いてみた。

「ああ、だったら大通りのたんぽぽ銀行の路地から入ったところにある洋食屋の、“シェフの気まぐれランチ”がいいんじゃないか」

 言われた通りの店に行って席に着くと、すぐにウェイトレスが水とメニュー表を持ってきた。
 見てみると――あれ? そんなメニューないじゃないか。
 店員に訊いても、特別な日替わり品はないという。仕方なく、悩んだ末にミックスフライセットを注文した。おかしいなあ。
 しばらくして、店員が料理を持ってやってきた。

「お待たせしました」

 テーブルに置かれたのは、こんがり焼き色がついたドリアと、サラダ、スープ、フルーツが乗ったお盆だった。

「え? あの……」
「サラダはお替わり自由で、コーヒーはセルフサービスです」

 店員はそれだけ言って伝票を伏せて置き、質問を拒むかのように足早に去っていった。
 伝票を見ると、「MフライS」と描かれた文字が二重線で消してあって、下に「チキンドリアS」と殴り書きされていた。
 なんだろ……。
 別に死ぬほどミックスフライセットが食べたかったわけでもないので、そのままチキンドリアセットをいただいた。ホワイトソースがチキンライスにとろりと絡み、なかなかいける。

 会計ではチキンドリアセットの値段で料金を取られた。

「なんなんだ、あの店」
 昼休みを終えて会社に戻ってから、同僚を捕まえて問いただした。
 すると彼は言った。
「あそこのシェフ、すごい気まぐれでさ。注文通りのものは滅多に出てこないんだ。たまに高い和牛ビーフシチューセットやコースメニューなんか持ってこられたりして、けっこうスリリングだぞ」

 いいのか、それで……。

 だが毎回違うものが出てくるということは、確かに一種の日替わりランチだ。その後も食べるものが決まらないときは、たまにロシアンルーレットランチのスリルを味わいに行っている。