トップ - もくじ - No.61〜80 - 個別の話69


夏の風物詩




 大学のサークル仲間で百物語をすることになった。人数分のろうそくを用意して、怪談を一つ終えるごとに一本火を消して――というあれだ。

 当日は百人とまではいかなったものの、二十人の怪談好きが集まった。
 二十本のろうそくを灯して、会場となった合宿所の一室で百物語を始めた。それぞれが背筋の凍るような怪談を一つずつ披露しては、ろうそくを吹き消していく。
 だが半分ほどの人数の話が終わったとき、誰かが喉にからんだかすれ声で言った。

「おい……数、増えてないか……?」

 言われて見回すと、確かに闇に浮かぶ火の数が多い。
 それも一つ二つではない。
 全部で三十近く。
 そして揺らめく炎で壁に映し出される、いくつもの異形の影――。

「だ、誰?」
 部長がおそるおそる尋ねると、地獄の底から響くようなくぐもった声が応えた。

『面白そうだから、まぜてもらいに来た……』
『とっておきの怖い話があるのだ、聞いてくれ……』
『あれは百年前、日露戦争の最中じゃった……』

 妖怪だ。
 妖怪が怪談をしに現れたのだ。

 古今東西、怪談好きは人間も妖怪も変わらないらしい。

 断る勇気を持ち合わせた者がいるはずもなく、妖怪と人間合同の百物語が始まった。
 ところが噂が広がったのか、その後も妖怪の“参加者”がどんどんおしかけてきた。話し手が増えすぎたため、全員が話し終える前に空が白んできてしまった。

 妖怪たちは『またやってくれ……』と言い残して、夜が明けきる直前にろうそく代わりの鬼火ともども去っていった。

 それにしても――。

 一般的に「百物語」は、最後のろうそくを吹き消した瞬間、何かが起こるとされている。

 あの百物語が終わったときって、一体何が出てくるのだろう……?