大学のサークル仲間で百物語をすることになった。人数分のろうそくを用意して、怪談を一つ終えるごとに一本火を消して――というあれだ。
当日は百人とまではいかなったものの、二十人の怪談好きが集まった。 二十本のろうそくを灯して、会場となった合宿所の一室で百物語を始めた。それぞれが背筋の凍るような怪談を一つずつ披露しては、ろうそくを吹き消していく。 だが半分ほどの人数の話が終わったとき、誰かが喉にからんだかすれ声で言った。
「おい……数、増えてないか……?」
言われて見回すと、確かに闇に浮かぶ火の数が多い。 それも一つ二つではない。 全部で三十近く。 そして揺らめく炎で壁に映し出される、いくつもの異形の影――。
「だ、誰?」 部長がおそるおそる尋ねると、地獄の底から響くようなくぐもった声が応えた。
『面白そうだから、まぜてもらいに来た……』 『とっておきの怖い話があるのだ、聞いてくれ……』 『あれは百年前、日露戦争の最中じゃった……』
妖怪だ。 妖怪が怪談をしに現れたのだ。
古今東西、怪談好きは人間も妖怪も変わらないらしい。
断る勇気を持ち合わせた者がいるはずもなく、妖怪と人間合同の百物語が始まった。 ところが噂が広がったのか、その後も妖怪の“参加者”がどんどんおしかけてきた。話し手が増えすぎたため、全員が話し終える前に空が白んできてしまった。
妖怪たちは『またやってくれ……』と言い残して、夜が明けきる直前にろうそく代わりの鬼火ともども去っていった。
それにしても――。
一般的に「百物語」は、最後のろうそくを吹き消した瞬間、何かが起こるとされている。
あの百物語が終わったときって、一体何が出てくるのだろう……? |