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発明王ヨシオ、あるいは夏の思い出




 クラスメートのヨシオが夏休みの工作で倍化レンジを作ってきた。

 彼は天から授かった特殊な才能の持ち主で、突然の閃きでとてつもない発明をするのだ。だがそのアイデアは記憶も記録もできず、できた道具も一回使うと壊れてしまう。
 今回は電子レンジを改造して作り上げた、なんでも大きくできるレンジなのだそうだ。

 チャンスは一回きりなので、何を大きくするかで話し合った。宝石や貴金属を大きくすれば儲かるが、元手がないのでどうしようもない。

 結局、金目のものは諦めて、男のロマンを追求することになった。

 さっそく裏山に行って、カブトムシとクワガタを採取する。一番大きなオオクワガタを虫かごごとレンジに入れて、わくわくしながら調理ボタンを押した。
 そして一分ほどした時、ぼん、という音がしてレンジが煙を吹いた。大きくなった虫かごがつかえて壊れたようだ。
 こないだの三次元コピー機と同じである。

 だがさすがヨシオのびっくり発明。
 虫かごを砕いて取り出したオオクワガタは、しっかり巨大化していた。全長三十センチメートルもある、間違いなく世界一の大オオクワガタだ。うかつに手を出したサトシが腕を挟まれて流血沙汰になったが、みんな大喜びだ。
 ネットオークションに出せば高値で売れるのではないかという話も出たが、やり方を知っている奴が誰もいなかった。それに、これはもうみんなの宝物だ。ゴミ捨て場から大きな水槽を拾ってきて、秘密基地で飼うことにした。

 ちなみにヨシオは工作を提出する前に壊してしまったので、先生にこっぴどく叱られていた。きっと家の電子レンジを持ち出して改造したに違いないから、家でも叱られることだろう。かわいそうに。

 大オオクワガタは、九月の終わりごろに死んでしまった。
 墓を作って線香代わりにポッキーを供え、丁重に弔った。