トップ - もくじ - No.41〜60 - 個別の話57


小悪魔エステ




 最近腹回りの脂肪が気になってきたので、悪魔に相談を持ちかけた。

「せっかくだけど、美容関係は取引が多い上に微調整が難しくてねえ」
 だが召喚に応えてやって来た悪魔は、帳面をめくって調べながら言った。まるで企業の経理担当者か何かのようだ。

「魂をもらってもお互いに割に合わないし、こちらの在庫もだぶついているんだよ。簡単な等価交換ならできるけど」
「等価交換?」

「同量での振り替えができる。ええと、皮下脂肪なら……内臓脂肪か、血中コレステロール、尿酸、血糖あたりかな」

「……」
「あと血栓と動脈・静脈瘤もあるけど。どうする?」
 言ってから悪魔は牙を剥き出してにやりと嗤い、付け足した。
「たぶん死ぬけどな」

「……やめときます」
「そうだな。ちょっとぐらいの体調不良は、自分の努力か病院で治したほうが安上がりだぞ」
 悪魔は頷いて、忠告までしてくれた。そして帰りがけに突然丁寧な口調で「ちなみに精神疾患のほうですと、まだ当方でも取引しております。ご用命の際は、ぜひとも私ネフォニートをご指名くださいませ」と言って、優雅に一礼して魔方陣の闇へと消えた。

 魔界もだいぶ合理化してるなあ。
 この分だと、テレビで株価や為替の値動きと一緒に魂の交換レートが放送される日も近そうだ。