長年住み慣れたアパートを引き払って、引越しをすることになった。 当日までに荷物をすべて運び出し、部屋は綺麗に片付けた。 壁紙やカーペットの汚れも落とし、現状復帰も完璧だ。
だが転居後しばらくして、会社の同僚から「お前が前いた部屋、幽霊部屋だったらしいぞ。住んでたときになんか見たか?」と訊かれた。
なんでも、帰宅して部屋のドアを開けると勝手に電気がついたり、こたつでうたた寝していると突然目覚ましが鳴ったりするらしい。怪奇現象が後を絶たず、気味悪がられて部屋に人が居つかないのだという。
「風呂に水を張っただけで、沸かさないのにいい湯加減になってたりもするらしいぞ。聞くと便利そうだけど、不気味だよな」 「へえ、変なの」
同僚には適当に誤魔化してその場を取りつくろったが、思い当たる節があった。 そう言えば、そっちの現状復帰はしていなかった……。
その日のうちに慌てて前のアパートに行き、こっそり魔法を解除した。
こういう裏技的民間魔法は、下手に業者に解除を頼むと、けっこう金がかかるのだ。大家さんに気付かれていたら、敷金が戻ってこないところだった。 危ない危ない。 |