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音楽の魔力




 超人気バンドのプラチナチケットを手に入れた。
 彼ら『エレキブレイカ』は音源を一切販売せず、ライブでしかその音楽を聴けない幻のバンドなのだ。

 事前にファンのホームページでチェックすると、「彼らの音楽は一度聴いたぐらいじゃ判らないね!」などと書き込まれている。

 熱狂的なファンならともかく、二度も三度もあの超高倍率で超高額なチケットを買う気もない。送られてきたチケットや案内状には特に注意もなかったので、「なあに、自分で楽しむだけさ」と勝手に納得して、テレコとICレコーダーと録音可能なMDウォークマンをバッグに忍ばせて会場に行った。

 そして彼らのライブは……。

 ある時はパンキッシュで破壊力抜群のハードロック風US Hip Hop。
 そしてまたある時は、
メロウでいてソウルフルなR&B調レゲエ……?

 よう判らん。

 まあ家でゆっくり聴いてみよう。
 そう思い、帰ってからバッグを開けたら、テレコに入れていたカセットから磁気テープが溢れ出してごちゃごちゃになっていた。
 おろしたてだったのに……。
 さらにICレコーダーは雑音だらけで何も聴こえず、MDは再生したらがりがりっと変な音がして、ウォークマンが煙を吹いて壊れた。

 そうか。

『エレキブレイカ』の楽曲は録音を拒絶するのだ。
 彼らがCDを出さないのは、こういうわけだったのか。

 しかし聴けないとなると、もう一回聴きたくなってくる。
 こうして伝説のバンドのファンは増え、チケットはますます手に入りにくくなっていくんだなあ。