トップ - もくじ - No.21〜40 - 個別の話27


無礼講




 幻の銘酒『真・鬼壊し』を手に入れた。せっかくだからみんなで飲もうということで、友人たちを集めて酒盛りを開くことにした。

 だがやって来た呑み仲間十人のうちの三人は、いくら勧めても飲もうとしない。
「俺、鬼壊しはやばいんだよ。かわりにこれ持ってきたから、みんなも味見してくれ」

 そう言って、一升瓶を取り出した。なんと、これまた超入手困難な幻の銘酒『神殺・極(しんさつ・きわみ)』だ。

 すると今度は別の二人が困った表情になった。
「僕は鬼でいいよ。そっちはちょっとね……」と、『神殺・極』には手をつけない。

 奇妙に気まずい空気が流れ始める中、さらに別の一人が言った。
「俺、『魔王退散』は駄目なんだ。滅多に出回らないから助かるけどさ」

 するとさらにもう一人がと告白した。
「俺は『仏殺し』。好奇心でちょっと舐めたら本当にひどかったよ……」

 全員が顔を見合わせて、乾いた笑いを漏らした。

 やがて気の利く誰かが話題を変え、別の安酒と肴を並べて大宴会に突入した。明け方に解散したが、みんな等しく二日酔いになったに違いない。

 しかし十一人集まって、鬼三人、神二人、魔王と仏が一人ずつか。

 人間って意外に少なかったんだなあ。