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虹の狂想曲




 秋特有の不安定な冷たい雨が通り過ぎたあと、鮮やかな虹が出た。
 あまりにくっきりしていて根元まではっきり見える。唐河岸通りのそばの丘に建つ白い家だ。

 虹が生えた家なんて、どんなふうに見えるのだろう。野次馬根性で行ってみたが、通りはすでに大混雑していた。とても近寄れそうにない。
 みんなけっこう珍しもの好きなんだなあ。
 仕方なく引き返した。

 だが、夜のニュースに映し出された光景はひどいものだった。
 どうもあの混雑は、伝説の「虹の根元の宝物」を狙って、人々が押しかけたせいだったようだ。

 もとは小奇麗だったろう家は、庭じゅうが掘り返されて見るも無残なありさまになり果てていた。ローカル番組のガーデニング特集でときたま見かける女の人が顔を覆って泣いており、旦那さんらしい男の人が、ひどく怒った様子でリポーターの質問に応えている。
 しかもけっきょく宝物は出ずじまい。
 虹は綺麗だったのに、なんだか可哀想だ。

 だが話はそれで終わらなかった。

 あの家の旦那さんが、庭を掘った人全員を相手に訴訟を起こしたのだ。

 狭い街のこと、誰が穴掘りに参加したかなどちょっと調べればすぐ判る。何人かは争う姿勢を見せたものの、結果は最初から見えているようなものだ。
 もちろん最終的には原告側が全面勝訴。原告夫婦には賠償金が支払われることになった。

 庭の復元にかかる実費は、さほどではなかったらしい。しかし、最高傑作の庭を台無しにされた奥さんと怒り狂った旦那さんの精神的慰謝料は、請求が全額認められてとてつもない額になった。
 結果的に、大金が夫婦のふところに転がり込んだわけだ。

「虹の根元の宝物」って、こういうことなのか……?