トップ - もくじ - No.201〜220 - 個別の話218


職人のいたずら




 私は定規メーカー社員。
 我が社の定規は全世界の定規シェアナンバーワンを誇っている。その目盛の精度は「1ミクロンの狂いもない」と業界でも有名だ。
 それもこれも、すべては私が計算して設計した雛形のお陰なのだ。

 だが社長も知らない秘密がある。

 実は、すべての定規の型は、1センチメートルあたり1ピコメートルぶん伸ばしてある。

 そう、つまり……。

 我が社の定規で1000000000000センチメートル測ると、なんと1メートルも長さが狂ってしまうのだ!

 正確無比とは名ばかりの見事な狂いっぷり。このスキャンダラスな事実を全世界が知ったら、どれほどの混乱が起きるだろうか。
 いつか訪れるであろうXデーを思うたびに、私はこらえ切れぬふくみ笑いに激しく身を震わせるのである。

 んふふふふふふふふふふ……。


<こぼれ話> 定規とものさしって厳密には違うらしい。手持ちの国語辞典を引用すると以下のとおり。
 ・定規…直線、曲線、角などを正しく描くのにあてがって用いる器具。また物差し。
 ・ものさし…物にあてがい、その長さをはかるための、長さの単位の目盛りがつけてある道具。
 だからこの話では本当は「ものさし」のほうがふさわしいのだろうけど……。語呂が悪いので定規にしてます。