トップ - もくじ - No.201〜220 - 個別の話206


魔術師の饗宴




 お盆休みで帰省したら、買物先で久々に中学時代の同級生に会った。暑いのでどこか涼みながらということになり、近くのファミレスに入って近況を語り合った。
 こちらは懐かしくていろいろ話しかけたが、しばらくして気が付いた。
 どうも彼の表情が冴えない。

「実は妹が白魔術師検定に合格してね」
「へえ、すごいじゃないか」

 彼の家族は全員が魔法を使う。町内でも有名な魔術師一家なのだ。

「そう言えばお前は?」
「うん……去年、心理魔術師資格を取ったよ」
「そのわりに元気がないな」

「ああ。うちっておふくろが黒魔術師で、親父が幻術師で、婆さんが妖術師で、爺さんが錆魔術師だろ? 全体的に白魔法とはどうしても折り合いが悪くてな。おまけに魔女は死んでも成仏に時間がかかるからさ。ひい婆さんやひいひい婆さんの霊もまだいて、もうめちゃくちゃだよ」

 白黒あたりはまだともかく、錆魔術って……。
 いや、いいけど。

「そうか、大変だな」

 魔術間の折り合いがどうこうなど、はっきり言ってあまり深く関わりたい世界ではない。とりあえず無難な相槌を打っておくことにした。
 だが相手は心理魔術師だ。
 当然というか、あっさり見破られてしまった。

「お前、判ってないだろ」
 彼はアイスコーヒーのグラスを横に押しやり、真顔で言った。

「いいか、魔術というものはだな。迂闊に違う系統の術が混じるとすごく危険なんだ。だいたい心理魔術と黒魔法と錆の術を混ぜたりしたら、何が起こるか考えたことがあるか……」

 それから家族連れで賑わう昼下がりのファミレスで、彼は魔道の秘儀について延々と語り続けた。

 二時間近くも禁断の外法やら精神の闇やらの話を聞かされて、こっちはすっかり具合が悪くなってしまった。町内に雀蜂とタンポポが少ない理由などは、恐ろしくて思い出す気にもなれない。
 今晩は確実に悪夢にうなされることだろう。

 別れ際、彼は言った。
「まあ一度遊びに来いよ。ひい婆さんは生前は腕のいいイタコだったから、今もときたま仕事が来るんだ。幽霊が降霊術やる光景なんて、ほかじゃ見られないぜ!」

 やだよ、そんなの。