トップ - もくじ - No.181〜200 - 個別の話199


至福のティータイム




 三軒となりに住むサカキさんの奥さんは、お茶飲みが大好きだ。毎日三時がお茶飲みタイム。こだわり抜いたお茶と極上のお菓子で、優雅なひとときを過ごすのだ。

「この紅茶、いい香りですねえ」
「あらありがとう。今年は旱魃があって心配だったけど。発酵もちょうどいいわね」
 彼女は自分好みの紅茶を飲むために、外国のとある有名な産地に畑を買って、自ら茶葉を育てて紅茶に加工しているのだ。アール・グレイの最高級品『ルビー・ドロップ』と言えば、聞いたことがある人もいるだろう。

「うわあ、チーズケーキも美味しいなあ」
「そう? 頑張って焼いた甲斐があったわ」
 もちろんお菓子も手作り。毎日ホールで一台作られるケーキは、彼女とお客さん用を除く八ピースほどが余りとして近所のケーキ店で委託販売される。開店と同時に即完売という超人気商品で、「うちのケーキより断然美味しいから仕方ない」と店の人さえも認める味だ。

「でも、今日はクリームチーズがいまいちだったわ。ジャージー牛の餌を変えたのがよくなかったみたい……」
 自家製と言うからにはケーキの材料にも妥協はなし。酪農王国として名高いとある地方に広大な牧場を所有していて、搾りたてのノンホモ・パスチャライズド(低温殺菌)牛乳でフレッシュチーズや高脂肪の生クリームを生産している。
 サカキさんが使う分以外は高級レストランやケーキ店にすべて買い占められてしまうので、個人が手に入れることはほぼ不可能だ。

 ほかにも南の島のサトウキビ畑、高山帯で養蜂、何エーカーもの小麦畑、世界各地の果樹園……と、挙げていくときりがない。

「ああ美味しかった、ごちそうさまでした」
「いえいえ、また遊びに来てね。来週の木曜日なんてどうかしら」
「え? いいですか」
「もちろん。一人でお茶を飲むなんてつまらないもの。コーヒーは少し深めの焙煎がお好みだったわよね。お茶受けは来週あたりアップルマンゴーが収穫できるから、それのタルトでいい?」
「うわあ、ぜひ!」
「絶対来てくださいね」

 お茶飲み大好きなサカキの奥さん。
 彼女は今日も世界を駆けめぐる……。