誕生日に友人がプレゼントをくれた。 二又に分かれた木の枝のような形をした、ビール瓶ほどの太さの物体だ。珊瑚を思わせる材質で、表面は不思議な虹色の光沢を放っており、とても美しい。しかも「これを持ってると、滅多にない体験ができる」のだという。 何が起こるのか聞いても、彼ははぐらかすだけで教えてくれようとしなかった。
「そのうち判るって」
幸運のお守りか何かなのだろうか。インテリアとしても申し分ないので、とりあえず部屋の棚の上に飾っておくことにした。
その日の夜中、熟睡していたら突然大声でたたき起こされた。
『ここか、盗人めが!』
頭の中で響き渡る大音声にくらくらしながら窓を開けると――。
夜空に龍が浮かんでいた。
『小童、儂の角を返せ!』
呆然としながら見ると、確かに頭に角が片方しかない。しかも悪いことに、その形と虹色の光沢に見覚えがあった。 あの、馬鹿――!
「こ、これですか?」 慌てて棚から取って差し出すと、鋭い鉤爪が付いた腕が伸びてきて角を奪い取った。
『貴様が盗んだのか?』
龍は相変わらず凄まじい目つきでこちらを睨みながら、怒りに満ちた“声”で咆えた。 冗談じゃない。必死に頭と手をぶんぶん振って否定する。 「いえっ! もらいものですっ。あなたさまの尊い御角とは露知らず……」
『……よかろう。次はないぞ!』
嘘はついていないし、相手もそれが判ったのだろう。 角を取り返したことである程度気が済んだのか、いささか独創性に欠ける捨て台詞を残して去っていった。
翌日、朝一番で友人に電話をして文句をぶつけた。だが彼は悪びれた様子もなく、呑気に言った。 「滅多にない体験だったろ?」 「死ぬところだったよ!」 さらに言いつのったら、「そしたらまさしく一生に一度の体験だな!」などとぬかして笑いやがった!
くそう。 こんなことなら、あの龍にこいつの名前と生年月日と住所を教えてやればよかった。
まあいい。
やつの誕生日は三ヵ月後。
海神の矛か地獄の閻魔帳かそれとも天狼の首飾りか。 とびきりの秘宝をプレゼントしてやるとしよう……。
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