春になったのに急に寒さが戻ってきた。 一度しまったストーブを再び引っ張り出したが、スイッチを入れても点かない。壊れた様子もないのに、どうしたんだろう。 こんなときは下手にいじるより、本人(本機)に直接訊くのが一番だ。
「いったいどうしたんだ? 暖房器具なんだから、ちゃんと働いてくれないと」 「春が来たんだ。俺の出番はもう仕舞いさ。老兵はただ去るのみなのだよ……」 年末に買ったばかりの新品だというのに、ストーブは妙に哀愁を漂わせて応えた。
彼がシニカルにふっと笑うと、黒い粉が宙に舞う。
あっ、判った。
急いで掃除機を持ってきて、ストーブにこびりついていた黒いすすを吸い取った。 思った通り、特に裏側がひどく汚れている。 三月の終わりに大掃除をしながらストーブを焚いていたら、ほこりがひどくて不完全燃焼を起こしてしまった。そのまま綺麗にせずに片付けたのだった。 ここまで背中が煤けていては、世を儚みたくもなろうというものだ。
汚れを落とすと、ストーブはもとの若々しいエネルギーを取り戻してがんがんと部屋を暖め始めた。設定温度を変えようがファジーモードにしようが、無敵の暖房力は衰えることを知らない。
暑い……。
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