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一流の証




 友人が勤めているレストランにランチを食べに行った。

 彼は高校を卒業してすぐこのレストランに就職したのだ。見習いからスタートして修行を重ね、今やコック服姿もずいぶん板についている。
 ランチタイムの後、休憩時間に入った彼と少しおしゃべりをした。

「旨かったよ。それにずいぶん繁盛してるじゃないか。毎日忙しいだろ?」
「まあね……」

 彼は静かに言った。

「最近、食材から声が聞こえるようになってきたよ」

 ほう。

 一流の料理人は、食材がどう調理してほしいか聞こえるというが……。
 こいつもすっかり一人前になったなあ。

 感心している私をよそに、彼はうつむいてぶつぶつと言った。

「やつら、いつも俺を馬鹿にするんだ。トマト一つまともに切れないど素人だとか、お前が触ると肉が腐るとか――。たかが食い物のくせに。ちくしょう、ちくしょう……」

 いや、これは……ノイローゼ?