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魂の行方




 俺は千億の心を持つ人間だ。
 その心のひとつひとつが異なる命を持ち、ひとつひとつの命に魂もまた宿っている。

 つまり、俺は千億の魂を持つ人間なのだ。

 類稀なる俺の魂を求め、今日も悪魔がやって来た。

「よう、今月ちょっと成績が苦しいんだ。少し魂を寄越せよ」
「いいよ。五万個くらいでいいか?」
「いや、そんなにいらん。七つもあれば充分だ」
「たった七つ!?」
「供給バランスが崩れると、こっちだって困るんだよ。ほれ、代金。一つ三万セクレピオだったよな」
「もう金はいいよ」
「だめだめ。決まりなんだから」

 一時期、ただで好きなだけ魂を貰えると知ったぐうたら悪魔どもが、俺に群がった時期があった。
 そして人を堕落させるべき悪魔が、働かなくなって堕落するというろくでもない事態が発生。
 以来、魂買い取り式の有料制ルールができたのだった。

「あの頃はよかったよなあ……」
「まあ、そう腐るなよ。ハルマゲドンでも起こったら、俺たちと天使どもで六〜七十億ぐらいはノルマが発生するからな。お前、あと十回は世界を救えるぜ」
 悪魔は慰めるように言って、二十一万セクレピオと引き換えに得た七つの魂を込めた瓶を片手に、闇の底へと帰っていった。

 魂を切り売りしながら生きて数千年。

 残りの魂は七百四十九億九千五百八十九万六千九百八十五個。

 いったい、俺はいつ死ねるのだ……。