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雪だるま事件




 深夜までかかった仕事が一区切りつき、ふと冷たい空気を吸いたくなって外に出たら――。

 一面の銀世界だった。

 寒い寒いと思っていたが、初雪が降っていたのだ。しかも、積雪が15cmほどもある。ずいぶん降ったものだ。
 仕事を終えた開放感から、突然「雪だるまを作ろう」と思い立った。上着と手袋を引っ張り出し、月光を頼りに雪玉を転がし始める。

 汗だくになりながら道路や空き地を往復するうちに、やがて二つの雪玉が完成した。

 まずは小さいほうの雪玉を持ち上げて、大きい雪玉に乗せる。
 次は腕。角スコップを下の雪玉の左右に二本差した。
 続けて帽子は――ポリバケツが見当たらなかったので、家からステンレスのボウルを持ってきて帽子代わりに頭に載せる。
 さらに仕上げにニンジンの鼻とミカンの目を加え、木の枝で細い眉と口を足す。
 これでよし、と。

 雪だるま、完成!

 積雪15cm程度ではそれほど大きくはできず、しかも泥がついてあまり綺麗ではないが、まあまあのできばえだ。
 家に戻って一風呂浴び、心地よい疲労に包まれて眠りに落ちた。

 ところが朝になって外に行ってみると、作ったはずの雪だるまは影も形もなくなっていた。

 私の足跡や雪を転がした跡は残っている。たった数時間で溶けるわけがないし、かと言って壊された形跡もない。
 夢ではないはずだが……。
 会社に行って同僚にこの不可解な出来事を話すと、彼は「あっ、聞いたことあるかも」と声をあげた。ネットで都市伝説サイトにアクセスして、「これだ! 見ろよ」と指差す。

 そのページには『初雪だるま』についての説明が書かれていた。

『あなたが冬の初めに作った雪だるまが、もし理由もなく失踪したら、それは雪男になったからである。その冬で一番最初に作られた雪だるまは、一冬限りの命を得るのである……』

「な? これっぽくないか」
 ううむ。
 確かにあんな夜中に雪だるまを作る奴はいないかもしれない。
 それにしても、判っていればもっときちんと作ったのに。どうせなら、表面くらいは綺麗な白い雪を付けてやればよかった……。

 つまりみなさん。

 この冬、ステンレスボウルの帽子をかぶり、角スコが二本刺さった雪男を見たら、それは私が作った雪だるまなのです。