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酔っ払いのたわごと




 遅くまで酒を飲んだ帰りに、飲み仲間の一人と月見をすることにした。
 突発的な思いつきだったので、当然満月なぞ望むべくもない。半月以上満月未満という中途半端な月をカップ酒片手に眺めながら、あることないこと言い合った。
 彼がしみじみ言った。

「こうして見ると、月の奴もけっこう可哀想だよな」

「なんで」
「満月の時と三日月の時しか注目されないだろ? 他の日はなんて言うか、準備中って感じでさ」
「そうかもなあ。昇る時間もまちまちだし」
 私は月を眺めて思いつくままに言った。

「なんかストリップみたいだよね」
「なんだそりゃ」
「ちょっとずつ欠けて、ちょっとずつ満ちてっていうのがさ。焦らされてる感じがするよ」
「うーん、逆にそう考えたら、色っぽくていいんじゃないか? 男の肥大した妄想を刺激して」
「ははは、そりゃいい。今度皆に提案するか」

 だが翌日から、月の満ち欠けがおかしくなった。
 どうやら、準備中と哀れまれる案もストリップと見なされる案もお気に召さなかったらしい。毎晩の月の形の変化が新月→三日月→満月→逆三日月(月齢26)→新月のサイクルになり、間がなくなってしまった。

 いくらなんでも極端すぎて風情がない。
 近いうちにあの時の相手を誘って、また月見酒をしなければ……。