友人のアパートに遊びに行ってくつろいでいたら、宅急便が届いた。
「ついに来たぞ! これで長年の夢がかなう」 少しして小さな包みを手に戻ってきた彼は、さっそく開封しながら嬉々として言った。
「夢って……魔法使いになるってやつか」 「そうとも! この薬を飲めば、魔法が使えるようになるんだ!」
包装紙を破くと箱が出てきた。箱から彼が取り出したのは、よく胃腸薬の錠剤が入っているような小瓶だった。中には赤や緑や紫など、毒々しい原色のカプセルが数錠入っている。
「うわっ、うさんくせえ。よせよ。こないだ失敗したばっかじゃん」 かつては彼も地道に魔法使いになる道を探求していた。書物を読み漁り、魔法使いに弟子入りを頼み、魔法大学をいくつも受験し、世界各国をめぐり歩いた。 だが致命的に才能がないと判るにつれ、どんどん怪しげな方法に頼り始めるようになってしまった。 魔力アップ風水術、魔力開発ギプス、十日間集中魔力キャンプ、マナリズム、基礎魔力化粧品、魔力もりもりキャンディ、魔力湧出軟膏、その他もろもろ。期待を裏切られ続けること、もう十数回にもなるだろうか。 で、今回がこの薬というわけだ。
「まあ見てろ。インターネットの掲示板で見つけてさ、裏ルートで個人輸入して手に入れた禁制品だぜ。今度こそ」 聞けば聞くほど怪しげだ。箱を引き寄せて見てみると、漢字でびっしりと文字が書かれている。 「げっ、ナカノクニ製かよ。よけいやばいよ」 「うるせえっ」 彼は逆上した金切り声をあげた。 そして止める暇もなく瓶を逆さにして、薬を一気に口に放り込んだ。続けて水をがぶ飲みして、一息に飲み下してしまった。
「あーあ」 「さあ、どうだ……?」
息を詰めるようにして待つこと、およそ十分。 やにわに彼が立ち上がった。
「おっ、なんか……来たぞ! 見ろ!」 彼は掌を上に向けた。
すると、ぼん!と炎が一瞬現れて消えた。
「やったあ!」 「本当かよ……」 茫然とする俺に、彼は有頂天になって次々と湧き上がってきた術を披露してくれた。
握った片方の拳から前触れもなく現れる花束や無数のハンカチ。 ハサミで切り刻んだはずなのに繋がっている紙幣。 両掌の間でゆらゆらと浮くピンポン玉。 コップの底を素通りするコイン。 帽子から飛び出すハト……。
「……」 俺はもう一度小瓶が入っていた箱を見た。
『魔術師的驚異的技能的手品的才能開花的奇跡的薬剤……』
やがて彼も気付いた。 鮮やかな手つきでさばいていたカードを、テーブルにたたきつける。 血を吐くような悲痛な突っ込み。
「マジシャンかよ!」
かくして、試された15番目の魔法使いになる方法は失敗に終わった。 彼の探求の旅路はまだまだ続く。
それにしてもあの薬、俺、ほしいかも……。
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