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タネもしかけも




 マジックが趣味の友人が、自慢のマジックを見せてくれるというので行ってみた。
 鮮やかな手さばきのカードマジックや硬貨に煙草を通したりといった、玄人裸足の腕前を堪能したあと、最後に友人が言った。

「じゃあ、練習に練習を重ねてマスターした、とっておきのを見せてやる。お前の携帯貸してくれ」
 言われたとおりに貸すと、彼はテーブルの上に俺の携帯を置いて、布をかけた。

「ワン、ツー、スリー!」

 掛け声と共に布をぱっと外すと、携帯はなくなっていた。

「はい、あなたの携帯が消えてしまいました!」
「どこがとっておきなんだ。ありきたりじゃないか。終わったんなら返せよ」
「それは無理だな。何せお前の家に送っちゃったから。これは瞬間移動のマジックなのさ!」

 彼は自分の携帯を取り出し、俺の携帯に電話をかけた。
 すると近くで着信音は聞こえないのに、呼び出し音の後に留守電に繋がった。友人が「ただ今14時38分。マジックショー中」と言って、その携帯をこちらによこした。促されるままに一応適当なメッセージを吹き込む。

 結局俺の携帯は行方不明のまま、友人の家を後にした。

 まったく、どこに隠したんだか。
 大事な携帯を胡散臭いマジックに使わないでほしいものだ。

 だが家に帰ると、テーブルの真ん中に携帯が鎮座ましましていた。14時38分に着信が入っており、友人と自分のメッセージが入っている……。
 友人にその旨を報告すると、彼は自慢げに言った。

「すごいだろ? 俺はマジックを極めちゃったね!」

 っていうかこれ、絶対マジックじゃない……。
 きっと難しいマジックを追い求めるあまり、変な才能が目覚めちゃったんだなあ。