「俺、今こんな仕事してるから」
　久々に会った中学時代の級友が名刺をくれた。

「どうせ次に会ったらまた違う仕事なんでしょ？」
　飽きっぽくて転職をしょっちゅう繰り返しているという噂を聞いていたので、ふざけてそう言うと、彼はにやりと笑った。
　なんでもこの名刺には特殊な処理が施してあり、その時々の肩書きが判るようになっているという。

　聞いたときは気にも留めなかったが、後日名刺を整理しているときに、彼の勤め先が『路肩舗装実業』から『銘信会』に変わっていることに気がついた。
　本当に変わるんだ……と思いつつ、新しい職業のほうが気になった。
　これって、南沖内地方の暴力団の名前じゃなかったっけ？

　その後しばらく、彼の噂を聞くことはなかった。

　数年後の同窓会でたまたま彼の話題が出た。
　ヤクザの幹部になったとか場末の賭場でゴロ巻いているとか鉄砲玉で死んだとか足を洗ったとか、みんな判らないままにあることないことを憶測して盛り上がった。

　帰宅してふと気になって名刺ファイルを繰ってみると。

　彼の肩書きは『ゴッドファーザー』になっていた。

　さて、上り詰めたのか、父なる神の御許に召されたのか……。