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習い事




 友人と話していて、「最近なんか面白いことあるか?」と聞いたら、「魔法を習ってるぜ」と言いだした。

 占いならまだ判るけど、魔法?

「えっ? どこで?」
「カルチャースクールでさ」
「……。で、どんな魔法を習ってるんだ?」

 すると彼はカバンからファイルを取り出した。
「こないだは、人を引き寄せる術だな。ほら」

 ファイルを開くとやりかたが書いてあった。

『風上に設置した香炉に炭を熾し、上に網を置く。そして生贄の鰻(※1)を裂いて乗せよ。しかる後に触媒(※2)をなすりつけながら、時間をかけて火あぶりにすべし。鰻の身を焦がされるような苦悶が周囲の人々の心を捕らえ、あなたの元へといざなうであろう。なお鰻がどうしても入手困難ならば、玉蜀黍(※3)でも多少の魔術効果を期待できる。
(※1)怠惰な生活を送り、丸々と肥え太ったものが望ましい。(※2)醤油、砂糖、酒、みりんを混合した液体。(※3)この場合、触媒は醤油のみでよい

「な? 呪具と触媒さえあれば、けっこう簡単なもんだぜ」

 うん。

 お前な、絶対に騙されてるよ……。


※本文中の『 』内は『土用の丑の日にうなぎを売る百の戦略』(宇曽田出版局)から引用しました。というのはうそです。