俺はフードハンター。 どんな食材であろうと探し出す、腕利きの食材調達人である。
今もさるケーキ店のパティシエに依頼され、探索の旅の真っ最中だ。 友人でもあるその依頼人が望むのは最強のフルーツ。最強のフードハンターたる俺に相応しい獲物だ。
そして、間もなく「それ」は発見された。
大きさは人の頭ほど。無数の棘に覆われた固い殻を持つ異形の物体。しかし怪異な外見とは裏腹に、殻を割るや、中に眠る淑女の柔肌のごとき白い果肉が現れる――。 人々はかの果実をロードオブザフルーツ、果物の王様と呼ぶ。
その名はドリアン。
俺は逸る心を抑え、なまめかしくてろりと光る果肉を口に含んだ。 ビロードを思わせる滑らかな舌触り。フルーティーなチーズケーキとも形容される濃厚な味わい。 旨い。 その一方で、果実を割った瞬間に俺は直感していた。 違う。 確かに美味ではあるものの、この名状しがたい異臭は万人に受け容れられるシロモノとは到底言えなかった。果物の王だとしても、最強の果物では、ない。
俺はドリアンに背を向け、再び探索の途に着いた。
海越え山越え谷越えて、ジャングルをさまよい、猛獣や原住民と戦う日々。自ら採取し口にした、未知の果実の毒で死にかけること一再ならず。 様々な果物が、俺の前に現れてはむなしく候補から消えていった。 森のバター・アボガド。一日一個で病気知らず・リンゴ。二日酔いの特効薬・柿。栄養満点・バナナ。俺も大好き・メロン。ぶどう、みかん、なし、ももさくらんぼびわざくろオレンジキウイライチアセロラハスカップ……。
だが困苦を極める冒険も、ついに報われるときが来た。 見た目は赤く愛らしく、食べれば甘酸っぱくジューシーにして、生クリームとの相性も最高。そんな、誰もを幸せにする最強のフルーツを発見したのである。 俺は食べごろの実を選りすぐり、依頼人の元へと急いだ。ああ、幸せの青い鳥は、やはり目の前にいたのだ。
「見ろ! 極上のイチゴだ。どんなケーキにも合う最強の果物だぜ」
「……」 依頼人は、もぎたてつやつやのイチゴをまじまじと見た。しばらくして一粒つまみあげて無造作にかぶりつく。味を確かめ終えるとうなずいた。 「確かに旨いな。使わせてもらうよ。でもお前な、知らないなら知らないって言えよな……」 「なんのことだ?」 「なんでもない。あ、そうだ」 彼はイチゴを店のスタッフに渡したあと、ふと思いついたように言った。 「実は今度、新作ケーキにスターフルーツを使ってみたいんだ。頼んでいいかな。今度は判るだろう?」
俺は力強くうなずいた。 「任せとけ。一番いいのを探してきてやるよ」
ふっ。 次は宇宙か。 腕が鳴るぜ……!
次回『スターフルーツトレック』or『スターフルーツウォーズ』!(うそ) |