トップ - もくじ - No.161〜180 - 個別の話179


世知辛き世(せちがらきよ)




 もうすぐ子供の日。
 あちこちにこいのぼりが上がっている。

 が、よく見ると最近の住宅高層化の影響か、なかなか歌のように「屋根より高い」ものはない。家々の間で充分な風も受けられず、所在なげに垂れ下がっている。
 かわいそうになって、こいのぼりの一つに提案してみた。

「どっかの高いビルのてっぺんに立ててやろうか?」

「いや、別にいいよ」

 ところがそのこいのぼりは、たいしてやる気もなさそうに応えた。見た目と同じく、言うことにもまったく覇気がない。

「だって高いところに行くと、その分風当たりも強くなるだろう? 華やかさはなくても、ほどほどの高さで地道にやるほうがいいね……」

 屋根より高くあるべきこいのぼりがこの志の低さ……。
 現実社会を反映して、堅実志向ってことかなあ。