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酒の魔力




 去年ハーブで仕込んだ花酒が飲み頃になったようだ。ちょっと試してみることにした。
 ラベンダーやカモミールやミントなど、いい香りの花やハーブをめったやたらに詰め込んで、氷砂糖と一緒に酒に漬け込んだものだ。

 ガラス瓶の蓋を開けると、甘い香りがふわりと立ち昇った。

 ホワイトリカーも足りなかったので、ブランデーやウィスキーやジンやウオッカ等々、家じゅうの飲み残しをこれまた適当に混ぜたのだが、意外にうまくいったらしい。

 さて味のほうは……?

 綺麗な飴色の酒をグラスに注ぎ、口に含む。舌にまとわり付くようなとろりと濃厚な液体が、芳醇な風味と共に喉を滑り落ちていった。
 鼻腔に残る馥郁たる香りの余韻を愉しんでいると――。

 急に頭が熱くなった。

 そして同時に、目の前のタンスに乗っかっていたレッサーパンダのぬいぐるみが、愛しくて愛しくて仕方なくなった。いても立ってもいられず、ぬいぐるみをタンスから引きおろし、力任せに抱擁する。
 ぬいぐるみを抱き締めたまま、なでまわしたり頬ずりしたりして、一時間ほどすると変な気分は治まった。

 どうやら酒とハーブのわけの判らない組み合わせから、わけの判らない効能が生まれてしまったようだ。

 にしても惚れ薬か。

 量も中途半端だし、使い道ないなあ……。