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コスト オブ センス




 新聞の折り込みチラシをチェックしたら、手芸用品店の在庫一掃大処分セールの告知を発見した。
 ちょうどいい。こないだ部屋の模様替えをしたので、新しい室内のハイセンスなイメージに合うクッションカバー用の布地が欲しかったのだ。その日の午後にさっそく買いに出かけた。

 店に行くと、入口のガラスに「SALE!生地ALL100円!!」と書かれたチラシが何枚も貼られていた。店内の色とりどりの布地にも、すべてに値下げの赤札が付いている。
 1m100円なら安いものだ。
 部屋のアクセントに使うつもりなので、派手めの布がいい。やがて気に入った極彩色のチェック地を見つけ、店員に声をかけた。

「この生地2m分ください」
「え? お客さん、それは無理ですよ」

 だが店員は戸惑ったように言った。
「今回のセールはメートル単位での計り売りはしていないんです。100円分でよろしければお売りしますが」
 あれ、もしかして騙された……?
「まさか、10cm100円とか?」
「いえいえ、セールなんですから、そんなけちなことはしませんよ。では100円分お買い上げでよろしいですか?」
 まあ、そこまであくどい店だという噂も聞かない。多い分には困らないので、買うことにした。


「ではお包みしてまいりますので、会計をお済ませください」
 店員はそう言って、布を巻いた大きなロールを台車に乗せてスタッフルームへと消えた。
 レジで100円払ってレシートをもらってすぐ、店員が台車を押してやってきた。
「はいどうぞ」
「え?」

 台車には、先刻の布のロールがそっくり巨大なショッピングバッグに入って載っていた。

「在庫一掃処分ですので、1巻100円です」
「いや、こんなにいらないよ……」
「セール品は返品不可です」
 店員にきっぱりと言われ、けっきょくそのまま持ち帰る羽目になってしまった。

 とりあえず服飾・デザイン関係の友人に相談したが、断られた。
「こんな派手な布地じゃあ使い道がないよ」
 その後も知り合いに片っ端から声をかけたが、やはり引き取ってくれるような物好きは現れなかった。
 どうしよう……。

 そして半月後の現在。
 私の部屋は、クッションはもちろん、カーテン、ベッド、ソファ、テーブルクロスまで、すべて極彩色のチェックで埋め尽くされている。

 落ち着かない。
 目がまわる。
 悪趣味……。