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クリスマスの夜に




 職場で同僚と話をしているうちに、「サンタクロースはいるかいないか」で論争になった。
 だがいくら信じていても、理屈で来られると肯定派は弱い。
 最終的には「だっているんだもん!」などとお子様口調になって、事実上の敗北で終わる。

 くっそう。このまま負けてなるものか!

 頭に来たので、サンタの存在を実証することにした。証拠を見せて、やつらに一泡吹かせてやるのだ!
 というわけで、クリスマス・イブの夜に合わせて祈りを込めた靴下をせっせと編み上げた。「来なけりゃ恨むぞう」祈りというよりは執念だ。

 だが出来上がった靴下は、ひどく不恰好だった。
 ちょっと不安になって、途中でふさがったりしていないか手を突っ込んでみると。

 腕は靴下の長さを突き抜けて、肘のあたりまで入ってしまった。

 だからと言って、底に穴が開いているわけでもない。どこか別の空間にでも繋がっているようだ。
 いわゆる、「なんとかの一念岩をも通す」というやつか。
 まあ通ったのは靴下で、本来の目的と違うけど……。
 とりあえずサンタクロース宛に希望の品を書き、折り畳んで靴下に押し込んだ。

 イブの夜。

 よい子にしてないとサンタは来ないと言われるが、もうそんな歳でもない。横になって、薄目で靴下を観察することにした。
 毎日の夜ふかし生活、不眠症、興味津々アドレナリンと揃っているので、ちっとも眠くならない。

 そして日付が変わってしばらくしたころ、唐突に靴下のつま先がふくらんだ。

 見守るうちに、かぼちゃのような楕円球がじりじりとせり上がってきた。そしてついには、靴下のてっぺんにオレンジ色の塊がはみ出す。
 まさか本当にかぼちゃなのか……?
 三分の一ほど出たところで、逆三角にくりぬいた二つの穴が見えた。穴の奥では、鬼火がちろちろと燃えている。

 どうやら、靴下はハロウィンに繋がっていたようだ。

 ジャック・オ・ランタンはくるりと首を回した。部屋にいるのが私だけなのを見て取ると、「子どもだけじゃなかったっけ」とひゅるひゅるした声で呟いて引っ込んだ。
 なんなんだ……。
 それきり何も起こらなかったので、寝てしまった。

 ところが、翌朝見ると、靴下が箱状に膨らんでいるではないか。

「寝たあとに来たのか」と歯軋りしながら取り出すと、黒い箱に黒いリボンがかけてある。
 ……ジャック・オ・ランタンがくれたのか……。
 中身は賞味期限の近いお菓子だった。
 トリック・オア・トリート。
 ハロウィンに稼いだものだろう。

 やはりサンタは大人のところには来なかった。
 だがジャック・オ・ランタンが存在するのだ。サンタクロースがいてもおかしくはない。
 ただし問題は、これを説明しても誰も信じてくれないだろうということだ……。