一日じゅう遊んで帰ってから、携帯をどこかに置き忘れてきてしまったことに気が付いた。
あちこち移動して遊びまくり、昼夜の食事はもちろんゲーセンや喫茶店もはしごしたので、どこにあるか見当も付かない。 買い替えはともかく、筐体には友人のアドレスといった個人情報が満載だ。まいったなあ。
翌日ひととおり問い合わせてみたが、やはり見つからない。
だが一応記憶を辿って前日のルートを彷徨っているとき、たまたま友人の一人にばったり会った。彼は「あれ?」と首を傾げて近寄ってきた。
「お前、旅行に行ったんじゃなかったのか?」 「なんだ、それ」 「だって今朝変なメールよこしたじゃないか。探さないでくださいって」
見せてもらうと、確かに朝十時ごろに俺の携帯から彼にメールが届いていた。 件名はなく、本文には“何日かしたら戻るようにするので、しばらく探さないでください”とある。
「それでこっちから電話したけど、繋がらなかったんだ。よく事件に巻き込まれて殺された奴の携帯から、犯人のアリバイ工作メールが来るっていうのがあるじゃん。ちょっと心配しちゃったよ」 「実は昨日携帯落としたんだ」 「じゃあ、誰かにいたずらされてるんだな」
とりあえず彼の携帯から自分の携帯に電話してみた。だがやはり圏外にあるか電源を切られているらしく、繋がらない。
「“しばらく”ってあるし、待ってみたらどうだ?」と友人が言うので、“困っています。一週間待つので、できれば返却してください。住所は咲山御崎町樹守1-6ミキモリ荘A202号室”とメールを送っておいた。
それから五日後。 樹脂ともガラスともプラスチックともつかない半透明の箱に入れられた携帯が、アパートのポストに入れられていた。
調べてみると友人の携帯から送ったメールは、きちんと受信して開封もされている。 この数日間、拾った相手が何をしていたのかは気になるものの、とにかく戻ってきたのでほっとした。
友人らの情報が漏れてしまったのは申し訳ないが……。
そんなことを考えながらぼんやり電話帳のリストを眺めていたら、友人のグループに“unknown”という見覚えのない名前が増えているのに気が付いた。 電話番号はなく、メールアドレスのみデータが入っている。 ひょっとすると拾った相手のものだろうか。 興味本位に“返してくれてありがとうございます。助かりました”とメールを送信してみた。
ほどなく、返事が来た。
“こちらこそ借りてしまって申しわけない。この携帯端末機器をどうしても一度調べたいと望んでいたため大変参考になった”と始まり、“もし良ければ、今後も時々当該惑星の状況を知らせてほしい。自動翻訳のため言葉が硬いことをお詫びする”と結ばれていた。
もう一度電話帳を開いて見てみると、差出人unknown氏のメールアドレスはmr.unknown.space-creatureとなっている。アドレスに必要なはずの@がなかった。 この携帯に直接メッセージを送り込んでいるのだろうか。
宇宙人のメル友できちゃったよ……。
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