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仮想メモリ




 デジカメを持って不知火渓谷に紅葉見物に行ったが、撮影する段になってメモリーカードを忘れてきたことに気が付いた。
 フィルムならともかく、メモリーカードなんて近くでは手に入らない。
 こういうとき、デジカメは困るなあ。

 ところが、一緒にいた超能力研究家の友人が言い出した。

「大丈夫。そういうときは念写すればいいんだよ。撮りたいって強く願いながら撮ってみな」

 半信半疑ながら、渓谷の対岸の鮮やかな紅葉にカメラを向けて、シャッターを切ってみた。

 再生すると、なんと写っているではないか!

「本当に撮れるんだ……」
「最近のデジカメは性能がいいからな」
 そういう問題か?
 まあ撮れるならありがたい。今年の紅葉は例年になく色鮮やかで美しい。容量を気にせず、たっぷり撮ることができた。
 そして家に戻ってから、さっそくケーブルでパソコンに接続すると――。

『取り込めるデータがありません』

 ……まあ……そうだよな。

 一縷の望みを託してメモリーカードを差してカメラを起動してみた。

『画像がありません』

 ……まあ……そうだよな。

 カードを抜いて再びカメラの電源を入れたが、念写画像はなくなってしまっていた。
 よく考えてみたら、記念にするなら土産物屋で使い捨てカメラを買えばよかったのだ。馬鹿だったなあ。

 とりあえず、今回の一件は俺に教訓を与えてくれた。

 困ったからといって、超能力に安易に頼るのは、よくない。