トップ - もくじ - No.1〜20 - 個別の話13


口当たりまろやか




 山に登ったら、頂上では見事な雲海が眼下に広がっていた。
 あまりに美しかったため、持参したゼラチンパウダーをふりかけて少し固めてみた。

 やがて雲は固まり始め、しばらくするとちょうど乗れるくらいの大きさのかたまりができあがる。
 せっかくなので、帰りは乗って帰ることにした。
 孫悟空の空飛ぶ觔斗雲――とは行かなかったが、腰掛けて後ろ向きに地面を蹴って進み、楽に下りることができた。さわり心地もよく、昼寝に重宝しそうだ。

 ところが家に置いて翌日仕事から戻ってみると、雲は3分の1ぐらいに目減りしていた。日中気温が高かったせいで、ゼラチンが溶けてしまったらしい。
 こんなことなら寒天で固めればよかった。
 慌てて残りを冷凍庫に突っ込んだ。

 けっきょくそのまま使い道を思いつかず、その雲は暑い日にイチゴシロップをかけて食べてしまった。
 たっぷり空気を含んだ雲氷は、なめらかなシャーベットみたいでなかなかおいしかった。今度友達にも勧めてみようと思う。